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日本はなぜ「世界レベルのLLM」を生み出せないのか——技術力ではなく「判断」の敗北

米国AI投資1091億ドルに対し日本は0.93億ドル。技術力ではなく「判断の失敗」が招いた組織的敗北を分析。

2026年2月1日 更新
所要時間:約1分
許汝涛
著者許汝涛· TaoApex創設者

基づく ソフトウェア開発10年以上、AIツール研究3年以上 RUTAO XU has been working in software development for over a decade, with the last three years focused on AI tools, prompt engineering, and building efficient workflows for AI-assisted productivity.

実体験

日本はなぜ「世界レベルのLLM」を生み出せないのか——技術力ではなく「判断」の敗北

2024年、米国のAI民間投資額は1,091億ドル(約16兆円)に達しました。中国は93億ドルで2位。日本は0.93億ドル——わずか140億円です。米国との差は約1,000倍。これは「遅れ」ではありません。試合に出場すらしていない「不戦敗」です。 日本には世界トップクラスの半導体技術があります。トヨタ、ソニー、任天堂を生んだ技術力があります。なぜ、ChatGPTやClaudeに匹敵するLLMを作れないのか。答えは技術力の欠如ではありません。「判断」の連続的失敗です。

「高いからいらない」——H100門前払いの代償

2023年、NVIDIAが最新GPU「H100」の営業で日本企業を訪問した際、多くの企業が「高すぎる」と断りました。1基4万ドル(約600万円)という価格に尻込みしたのです。 その結果がこれです。 ChatGPT開発には1万〜2.5万基のGPUが必要とされています。Metaは2.1万基以上を保有。Stability AIでさえ5,000基。一方、日本最大のAI計算基盤である産総研のABCI(AI橋渡しクラウド基盤)は、4世代前のV100が1,088基、3世代前のA100が120基。合計わずか1,208基です。 欧米企業が最初から大量購入を約束している間、日本は「高いからいらない」と門前払いをしていました。在庫が払底してから慌てても、もう遅い。LLMの訓練には膨大な計算資源が必要です。それなしに、世界と戦えるモデルは生まれません。

600万円では誰も来ない——人材流出という静かな敗北

日本のエンジニア平均年収は約600万円。米国では2,000万円を超えることも珍しくありません。3倍以上の差があります。 さらに深刻な問題があります。日本にはAI人材を育成できる「教官」が40〜50人しかいないと言われています。教える側の人材すら足りない。経済産業省はデジタル人材育成に本腰を入れていますが、専門家の見立てでは「ドイツに10年遅れ、米国に20年遅れ」です。 優秀な人材は文句を言いません。黙って去るだけです。GoogleやOpenAIが3倍の年収を提示すれば、日本に残る理由がなくなります。人材流出は統計に現れにくい「静かな敗北」です。気づいた時には手遅れになっています。

50代が決める、20代のアイデア——組織の老化

日本企業の多くでは、20代・30代に発言権がありません。どれほど優れたアイデアや技術を持っていても、最終決定権を握るのは50代・60代です。 この構造はAI時代に致命的な弱点となります。 LLMの世界は週単位で変化します。新しいモデルが発表され、ベンチマークが更新され、最適な手法が塗り替えられる。「上に確認します」「稟議を通します」と言っている間に、世界は次のフェーズに進んでいます。 レガシーシステムへの執着も足枷です。日本の企業や官公庁は古いシステムを使い続けるケースが多く、新技術の導入に時間がかかります。「動いているものは触るな」という文化が、変化を拒みます。

日本語という「ハンデ」の虚実 「日本語のデータが少ないから不利だ」という説明をよく聞きます。

確かに、ウェブ上の英語データに比べて日本語は圧倒的に少ない。トークン効率も悪く、「憂鬱」という漢字2文字がOpenAIのトークナイザーでは6トークンになることもあります。 Japanese StableLM Alphaは約7,500億トークンで事前学習されました。ELYZAは追加で180億トークンの日本語データを学習させています。英語LLMに比べれば、確かに規模は小さい。 ただし、これが「世界レベルのLLMを作れない」本質的な理由ではありません。 韓国も中国もフランスも、英語以外の言語を扱っています。それでも独自のLLMを開発し、グローバル市場で存在感を示しています。言語のハンデは言い訳にはなりません。本当のボトルネックは、投資判断と組織文化にあります。

国産LLMの希望——「軽量化」という生存戦略

暗いニュースばかりではありません。日本発のLLMには、独自の強みがあります。 NTTの「tsuzumi」は日本語処理に特化し、生成AIベンチマーク「Rakuda」でGPT-3.5を81.3%上回る性能を示しました。NECの「cotomi」は処理速度で圧倒的な差をつけ、GPT-4で46.65秒かかる処理をわずか3.92秒で完了させます。 これらの国産LLMに共通する戦略は「軽量化」です。GPT-3が1,750億パラメータを持つのに対し、国産モデルは13分の1程度の規模で同等以上の日本語性能を実現しています。計算資源で勝てないなら、効率で勝つ。 NICTは3,110億パラメータという日本語特化型では世界最大規模のモデルを開発。SB Intuitionsは1兆パラメータを目指しています。遅れてはいますが、戦いを放棄したわけではありません。 注目すべきはSakana AIです。創業1年で評価額1,800億円に達し、国内最速でユニコーン企業となりました。「逆張り」の発想で、生成AIの新しいアプローチを模索しています。海外で経験を積んだ人材が日本で起業する——この流れが加速すれば、状況は変わる可能性があります。

「匠の精神」を超えて 日本のモノづくりを支えてきた「匠の精神」は、製造業を世界一に押し上げました。

細部へのこだわり、品質への執着、長期的な改善。これらは自動車や電子機器では強みでした。 しかし、週単位で最適解が変わるAI開発では、この精神が枷になります。「完璧なモデルを作ってから発表する」では間に合わない。OpenAIは不完全なGPT-3を公開し、ユーザーのフィードバックで改善しました。Meta(旧Facebook)はLlamaをオープンソースにして、世界中の開発者に改良を委ねました。 日本に必要なのは、「追いつく」という発想の転換です。 計算資源で米中に勝てないなら、軽量化と効率化で別の土俵を作る。人材を国内に囲い込めないなら、海外の日本人研究者とのネットワークを構築する。意思決定が遅いなら、スタートアップに権限と資金を集中させる。 1,000倍の投資格差は、同じ戦い方では埋まりません。 勝負の分かれ目は、過去の成功体験を捨てられるかどうか。「高いからいらない」と言った判断を反省し、次は違う選択ができるかどうか。日本のLLM開発は、技術の戦いではなく、組織と文化の戦いです。

TaoApexチーム
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専門家によるレビュー済み
TaoApexチーム· プロダクトチーム
専門分野:AI Productivity ToolsLarge Language ModelsAI Workflow AutomationPrompt Engineering
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よくある質問

1日本のAI投資額は世界と比べてどのくらい少ないですか?

2024年の米国AI民間投資額は1,091億ドル(約16兆円)に対し、日本は0.93億ドル(約140億円)で、約1,000倍の差があります。

2日本がGPUを確保できなかった理由は?

2023年にNVIDIAがH100を販売した際、多くの日本企業が「高すぎる」と断りました。欧米企業が大量購入を約束した後では在庫が払底し、確保が困難になりました。

3日本のAI人材はなぜ不足しているのですか?

日本のエンジニア年収は約600万円で米国の2,000万円以上と大きな差があり、優秀な人材が海外流出しています。またAI教官も40〜50人程度しかいないとされています。

4国産LLMにはどのような強みがありますか?

NTTの「tsuzumi」はGPT-3.5を81.3%上回る日本語性能、NECの「cotomi」はGPT-4の12倍の処理速度を実現。軽量化と効率化で独自の強みを持っています。

5日本のLLM開発に希望はありますか?

Sakana AIは創業1年で評価額1,800億円のユニコーンに成長。NICTは3,110億パラメータの日本語特化モデルを開発中で、独自の戦略で世界に挑んでいます。